伝えたいのは
水上村の豊かな暮らし
山茶の文化が根づく
水上で3代に渡って製茶
九州や四国の山中では古くから、茶の木が自生していました。水上村もそのひとつ。山に自生する茶は“山茶”と呼ばれ、粗製茶や自家用の釜炒り茶に利用されていたといわれます。その名残でしょうか、村を歩いているとあちらこちらで、生け垣がわりに茶の木を植えている家を見かけます。「水上村は標高が高く、朝夕の寒暖差があるので香りのいい良質な茶葉が育つんですよ」と語るのは濱川彩美さんです。
球磨川の源流域
新茶の季節まで大忙し
標高約380mの高台にある「濱川園製茶」。彩美さんはその3代目です。お邪魔したこの日はちょうど、剪定を始めたばかりの日。ここから新茶の時期に向け、やわらかな若芽を伸ばしていくための準備に大忙しです。「この辺はあまり霧も出ないんですが、霜は多いので寒の戻りがあるこの時期は気を遣うことも多いんです」。茶葉を寒さから守るため、スプリンクラーで水を巻くなど、さまざまな工夫を凝らしているといいます。
農薬も除草剤も一切使わぬ栽培
標高差を生かしてつくるお茶
「これからの時季は草取りも大変です。それでも創業者である義父の時代から、農薬も除草剤も一切使わない栽培を貫くのは、山の自然に囲まれた茶畑なので害虫も発生しにくいことと、すこやかでおいしいお茶を作りたいという思いがあるから」とは、彩美さんの母・裕子さん。水上村や相良村に約1町6反の茶園があり、標高差を利用してつくる茶は品種や収穫時期もさまざまで、5月から8月にかけて茶摘みが続くそうです。
単品種からブレンド茶まで
7種の茶葉の個性を生かす
「茶は山の恵み。父が山茶を茶園化し、棚田を茶畑に代えてまでつくった茶園を、子や孫の世代に引き継ぐのが私の使命です。栽培から製造まで一貫してやるからこそ、届けられるおいしさや安心がある」とは、彩美さんの父・俊一郎さんの言葉です。やぶきた、むさしかおり、べにふうきなど7種の茶を栽培し、香りやうまみの奥深さを味わうブレンド茶も手がける同園。「湯山の紅茶」と「湯山のほうじ茶」は、甘みと穏やかな味わいが人気です。
家族揃って手作り上手
水上を満喫する農家民宿
濱川さん一家は10数年前から納屋を改装し、「農家の宿 茶乃実」を営んでいます。寒緋桜が美しい花を咲かせる庭、茶畑や季節が彩る山景色は旅人にとってなによりのもてなしです。「村の豊かさを伝えるため、これからも家族で挑戦を続けたい」と話す俊一郎さん。お茶や四季折々の山の幸、裕子さんお手製の味噌や甘酒、郷土料理など、濱川さん一家を通じて見えてくる水上村のくらしに魅せられ、移住を決めた若者もいるほどです。